重力ピエロ 特別版 [DVD]
(出演), (出演), 森淳一 (監督)

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伊坂幸太郎原作の感動ミステリーを、『ありふれた奇跡』の加瀬亮と岡田将生共演で映画化。過去の辛い出来事を抱えながらも平穏に暮らす家族。兄弟が大人になったある日、市内で連続放火が発生。弟の春は現場の近くに残されていた謎の落書きに気付き…。

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伊坂先生の小説を読んで、彼ら家族の生き方に感銘を受けた『』。
その映画化がされると聞いて、楽しみな反面
とても不安でもあった。
小説や漫画がアニメやドラマ、映画化されて、面白かったものに
ついぞ出逢っていないからだ。
商業的な利益ばかりを考えたキャスト、内容。
好きな作品なだけに、そんなことにだけはして欲しくない。

映画が始まり、美しい青空と桜。
春が二階から落ちてきた。
という加瀬さん演じる兄の泉水のナレーション。
そして、春を演じる高校生時代の岡田さんの、制服姿と笑顔。
この冒頭を見た時に、ほっとした。
”大丈夫だ”と思った。
彼ら兄弟の独特の、たおやかで温かな雰囲気が感じられたのだ。

この映画は徹底的に、映画であるということに拘っていた。
文章だから表現出来ること、映像だから表現出来ること
その違いをきっちり把握して作られていた。
小説とは変更点がいくつもあったが
確固たる理由があってのことなので納得がいく。

たとえば、泉水が社会人ではなくまだ学生なのも
見た目の問題は勿論、遺伝子研究の会社であるというより
大学院生で研究室にいるという方が
映画だけで考えれば映像だけで簡単に説明できる。
泉水の夢に出てくる過去の母とバットを持った春は
小説ではとても衝撃的で考えさせられるシーンだったが
映像にすればあまりに悲しく辛いものになる。
そういった部分を極力排除し、
たとえばバットで殴っても血が出ないであるとか
リアルにこだわらないことで映像が美しく、
逆に感情が浮き彫りにされてリアルになる。

春のノートの設定が部屋の写真に置き換えられているのも
良い演出だと思った。
一目で春の異常さ、ストイックさ、賢さが表現される。
徳川綱吉を尊敬していて動物好きである、というエピソードが無かったのは残念だが
初めの方で、土手に落ちている成人用雑誌を春が蹴飛ばすシーンは印象的。
内に秘めているもの、そうしたものへの嫌悪が、その数秒で表されていた。

ローランド・カークを父の回想シーンで使ったり
夏子さんの設定をばっさりと切り落としてシンプルにしたり
長い小説の話を短く、映像として綺麗に魅せる工夫が随所にされていた。
葛城が注文していたジンジャーエールを、春も注文しているさりげないシーンも良かった。
運ばれるジンジャーエールのグラス、それに注がれる強張った泉水の視線。
これは、映像ならではの表現方法。

映像ならではと言えば、葛城がビデオカメラで泉水を撮り出すシーンは面白かった。
葛城がカメラを持つ姿と、奥のテレビにそれで映し出された
険しい泉水の表情が映るというのも、ふたりのそれぞれの思惑が一度に分かる。

ビジネスホテルのフロントの男と仙台銘菓の”オチ”も入れて欲しかった。
しかし、欲を言えばキリがなく
欲を言いたくなるのはつまり、それだけ原作のテイストを損なわない
素晴らしい作品であることの裏返しだ。

実力派の役者揃いの中で、特筆すべきはやはり、春役の岡田さん。
小説の中で、兄がそう思うほど整った顔立ち
豹さながらの恰好良さ
そして、家族が幸せになるほどの笑顔を持つという
難しい役だ。
監督も、春役をキャスティングするのに一年近くを要したそうだが
それはそうだろう。春は兎に角恰好良くなくてはいけないのだ。
そんな難しい役どころを、岡田さんは文句無く演じてくれた。
個人的に惹かれたのは、春が左利きだったこと。
岡田さんご本人がたまたま左利きなのかと調べたところ
ご本人は右利きで、春のイメージは左利きだと練習し
監督に左利き設定をもちかけて認めさせたのだとか。

昨今中々珍しい、原作を壊さず、媚びず
オリジナリティを加えて映像化する意味をきちんと魅せてくれた。
とても美しい作品だった。

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