うたかた/サンクチュアリ (角川文庫) 文庫 – 1997/12
ばなな (著)

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人を好きになることは本当に悲しい。悲しさのあまり、その他のいろんな悲しいことまで知ってしまう。透明な間の中に運命的な恋の瞬間と、静謐な愛の風景を描き出した二編を収録。芸術選奨新人賞受賞。

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何度も読み直してしまう。

うたかたもとても好きだ。
家族の不思議な形、嵐との一風変わった恋。
とても前向きで、明るいお話だと思う。
でも私は、サンクチュアリがもっと好きだ。
つい智明くんに感情移入をしてしまうのだ。

以降

不倫の恋という秘密を抱いたまま死んでしまう友子。
残されたのは自分だけ。
自分ひとりでこの秘密を背負っていかなければならない。
打ち明けてもくれず、連れて行ってもくれなかった恋人。
本当に好きだった、行き場のなくなった自分の気持ち。
その事実も、全てひとりきりで抱えていかなければならない。
それがすごく、辛いなと思う。

呪いのように力が出ない、ダウンしたままの時間稼ぎ
という表現は、秀逸だなと思った。
どうしていいのか分からない脱力感。
しかも智明くんの場合は、周りには落ち込んでいることがばれてはいけない。
彼女の死すら人づてに聞くしかなく、高校時代の友達としてしか
葬儀にも行けない。
その全てが暗く、重くてだるい。

毎晩夢に見ては、現実に引き戻される度何度も味わう辛さ。

傷を舐めあっているのだとしても、つまり、悲しみを盆栽にして眺めているとしても、
馨と出会えて良かったのだ。
やっと時間稼ぎも終わりをつげて、少しずつまた、智明くんの今が動いていくのだと思う。
それが嬉しい。

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