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この本は面白いというより、上手い本だと思う。物語を書いたり書き方について考えたりするような人にとっては展開や伏線など唸らされるところはあると思う。それが他の伊坂作品と比べてどうかという話になるとこの物語が一番優れているというわけではないと自分は思う。
伊坂作品は小気味良いものとかなり重めのものとがあるがこの作品については後者である。タイトルからはそれが予想できず、気を晴らそうと手にとったのでちょっと予想外な展開に読んでいて気が滅入ってしまった。あとがきにも勘違いさせたらごめんというような趣旨があったのでちょっと笑ってしまった。

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ネタバレあり。

いつかこんな時代が来ないとも言い切れない不気味さに、本当に読んでいて底冷えするような恐怖を感じた。
ゼミがトラップというのも読んでいて本当に辛かったし、ヒーローが所謂意味でのヒーローではなかったこともがっかりというと少し違うような気もするがショックを覚えた。
特定の登場人物に思わず肩入れしてしまうような特別に魅力を感じるキャラクターはいなかったように思う。ラストもすっきりとしているとは言いがたく読者に解釈を委ねられた終わり方になっている。淡々と描かれているからこそ、どこにでも起こり得るようにも思えるのかもしれない。
こうして物語として書き起こされ、いろんな立場の人からの視点で書かれているとわからない一般市民が異常なように見えるが実際渦中にいれば徐々に慣れてしまい異常さに気がつけず、冤罪という重大な可能性にも目を伏せて、犯罪を犯しそうもない人物が犯罪をしたのだと言われてそれを疑うのではなくあの人は危険人物だったのだと納得してしまうということは現実にありえることであり現実に起こっていることでもあり空恐ろしい内容となっている。
火星に住むつもりはなくこの地球で、日本で住むしかないその中で一体自分には何が出来るのだろうか。自分が彼らの立場になったら、何が出来るか。しようとするのか。
動物の本能として、安心できる情報より危険な情報、恐ろしい情報に反応するというのは確かに尤もである。実際大昔のこととは言え魔女狩りは存在したのだから。他人事だと思っていたことが突然自分の身に振りかかる。この恐怖は、平和警察などの突飛な設定がなくとも現実に起こりうることだ。
犬や音楽などいつもの伊坂作品にお馴染みのものも登場しつつ郵便配達員も序盤から何度も織り込まれている。
すべての人を救わないことは偽善というあたりは読んでいて胸に痛かった。個人的に、ボランティア活動をしていても同じような目にはよく合う。全員を助けることは難しい。だがそれをしないなら偽善だと後ろ指をさされ何故かひとりも救っていない人が偉そうに人を否定し、正しいことというのがよくわからなくなってくる。
やはり一番興味深かったのは武器となる磁石のくだりで磁石を束ねる時S極とN極を揃えると磁力は強くなるが向きを揃えない方が安定するというのは大変印象的だった。

2016.2.11

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