クジラアタマの王様 (日本語) 単行本 読書レビュー

クジラアタマの王様 (日本語) 単行本 – 2019/7/9
伊坂 幸太郎 (著)

始めは内容がよくわからないファンタジー世界の
バトルの模様が台詞の無い漫画として挟み込まれ、
挿画の一種なのかと思い読み進めていくと
ギミックがわかる仕組み。
夢の中の住人たちが見る夢に、我々の現実世界が出てくるなど
コミックパートもどんどん進展していく。

夢などの異世界と主人公の意識が行き来するパターン自体は目新しいものではないが
アクションの多い夢の世界の部分を漫画で表現するという
実験的な試みが大変面白い。

新型コロナやネットでの誹謗中傷が話題になっている
このタイミングでこの本を手にとったことが
面白い巡り合わせだと感じた。
今の世の中は、ちょうどこの物語に出てくるように
犯人探しや無責任な噂、利権や買い占めなどの
身勝手な話で溢れている。
仕事ができる人に仕事が集まるのに給料は上がらないし
周りが気を遣うからむすっとしてる方が得。
ままならないことが多い世の中だ。

どうなったら解決するのか。何をゴールとするのか。
問題や課題があったらまず
それが収束する状況を洗い出す。
それから、その状況にたどり着くための道筋を上げていく
という話はとても大事。
意外とゴールを設定しないで失敗する状況は多い。

指示があると安心するが、それが良いとも言い切れず
新情報があるわけでも
事態を打開する提案が発表されたわけでもないのに
誰かの言葉に従って言えば助かるのかもしれないと思ってしまう。
それは錯覚だから、盲信しては破滅する。
指示を出している人も
どうしたらいいのかわかっているわけではない。
この辺りも、今の現状に重なった。

やるべき事は1つだけ、悩む必要がない。
問題はそれができるのかどうか
というのは恰好良いし正直だと思った。
正直、自分だったらコテージに入るって防戦をすると思う。

人間を動かすのは、理屈や論理よりも、感情だ。同じ罪を犯した人に対しても、感情が左右すれば、まったく違う罰を平気で与える。理屈は後からつける。
感情があるからこそできることもあるし、間違えることもある。
その間違いも、違法だからといってなにが正義のヒーローなのか
判断も難しいところで
微妙なところの事実を絶妙な描き方をするところは相変わらずで素晴らしかった。

奇妙な3人の絆、コウノトリの目論見は実際なんだったのかという謎も残しつつ
読後感は爽やかで面白かった。