犬と私の10の約束 視聴レビュー

犬と私の10の約束プレミアム・エディション [DVD]
田中麗奈 (出演), 加瀬亮 (出演), 本木克英 (監督)

犬が家族ではなくファッションアクセサリーとしてしか扱われていない

この類の話は犬の可愛さや尊さに頼り過ぎで
説教臭くお涙頂戴になりがちという印象があるので
敬遠していたが、函館が舞台ということと
福田麻由子さんが好きなので見てみた。
お涙頂戴どころか、犬を飼うことに対して
あまりにも無責任な描写しかなく、
本当に犬の十戒をモチーフにして作ったのか疑ってしまう内容だった。

この映画を楽しく見られる人、感動できたと言える人は
余程フィクションであり現実には有り得ないこと
として割り切ってみられるか
犬が好きではないか
ファッションで犬が好きと言える人なのだと思う。
普段は好みが違うだけとスルーできるが、流石にこの内容の映画を見て
感動したと言う愛犬家の人たちは普段犬とどう接しているのかと思うと
怖くなる。

自分はたとえフィクションでも、
一番物語の核になる大事なところ
このテーマで言えば犬を飼うということには
嘘を混ぜてはいけないと思うので
この映画は面白いというより腹が立つ内容でしかなかった。

 

あかりの犬の扱い方

人様の飼い犬へのマナーがなっていない

よその犬を、向こうから駆け寄ってきたのを
撫でるのは兎も角抱き上げるのはちょっとどうだろうか。
飼い主が掴まえてくれと叫んでいたとかならまだしも
飼い主に断りもなく撫でるのもどうかと思うのに、抱き上げるのは最悪の行為だ。
その時点で既に、犬の扱い方を間違えている気がする。
後で札幌のシーンでも飼い犬に「かわいいー」と声をかけ
飼い主が「こんにちは」と言ってきても無視して
犬にだけ構おうとしている。愛犬家以前に人として非常識だ。

それとあの砂浜は犬の散歩にはあまる向いていないと思う。

 

大型犬を飼うということ

迷い犬は保護して然るべき所へ届け出を

いくら函館でも犬、しかも純血種の子犬がふらふらしているのもありえない。
中学生でも、迷い犬などの可能性を考えるべきだったろう。
拾得物横領、犬が家族と言うなら誘拐である。
野良犬がいてもおかしくないど田舎設定なのに
夜にクラクションの音が響いているのも違和感があった。
後から足した音のように思えてしまった。

都会の人がロケハンだけやってきて
景色だけ良いと思って函館を使ってしまうからだろう。
家から砂浜も遠いだろうし。

描写が無いが、警察や保健所に届けたのか。
病院へ連れて行って予防接種はさせたのか。
リードもつけず、いくつかもわからないのに
外を歩かせて犬の健康が気になる。
後から、引き取ってもらったという話が出てくるが
子犬を放し飼いにしていて庭に迷い込んだ
設定なのだろうか。違和感しか無い。

 

犬を追いかけ回してはいけない

逃げるなと言いながら犬を追いかけ回し
シャツをかぶせ。
本当に犬好き向けの映画なのだろうか。
せめてハムやチーズで釣るとかして欲しい。

 

犬はリードをつけるかキャリーに入れるべき

母が入院している病院は犬を連れ込んで
(しかもキャリーケースにも入れず)良い病院なのだろうか?
庭部分はOKということにしても、リードはつけて欲しい。

 

きちんと躾を入れるべき

テーブルに手を載せて人の飯を食わせてはいけない

テーブルに犬が手をのせているのを叱らず
犬嫌いの父に「大丈夫」というのも酷い。
まともにしつけをしてないだろう。
これでは上下関係を覚えることもできないだろう。
塩分の多い鮭をなめていても慌てて止めるのではなく
笑いながらなのが信じられない。

 

大型犬は特に躾が大事

小型犬も勿論だが、大型犬はサイズが大きく力も強いので
より一層きちんと躾をすることが必要だ。
まともなペットショップや経験者なら、父親などの男性、
群れのリーダーポジションを取れて大型犬に負けない腕力のある人間が
家にいない状態での大型犬の飼育は止めるはず。
本作では父親は仕事でおらず、母親も入院している。
にも関わらず子犬を譲る人間もあまりにも無責任だ。
子供がひとりで可哀想でどうしても動物を飼うなら
鳥や猫、せめて小型犬であろう。

 

命を預かること決めたなら最期まで

一度ペットを飼ったならペット可物件以外は選択肢にならない

転勤先にペットを連れていけないという無責任さ。
しかし無責任という体ではなく、
あかりが「寂しい」でしか無いのが腹立たしい。
犬の十戒をモチーフにしているのに、全く犬を家族と見ず
命の責任を持っていないところが驚きだ。
「すぐに迎えに来る」と言いながら、
犬を避けている友達に犬を押し付ける。
そんなに家はすぐ見つからないか?
多少思い通りでなくともとりあえず
ペット可の家を探してから引っ越せばいいし
どうせ父親は元々家事がろくにできず
仕事が忙しくて家にいなかった設定なのだから
それまであかりは函館でソックスと暮らしていればよいだろう。

二ヶ月経ってもペット可の家を探していないし
札幌から函館の空港までバイクで行くのだろうか?
転勤先は札幌と言っていたように思ったが。
そしてロケ地は木古内らしいが
そこからタクシーで空港に駆けつける?
父親も辞表を出すならもっと早く出して欲しかった。

 

迷子にさせた無責任と、寮に連れ込む無責任

札幌から「会えるぞ」と駆けつけるが
市電の人が首輪の電話番号を見てかけてくれた訳で。
多くの人に酷い迷惑をかけているのに謝ったのだろうか。
「ペットじゃない、家族だ」と言うならそもそも何故置いていったのか。
ソックスが脱走しなければ進の家に預けたままの予定だったのか?
足も丸出しで犬を寮に連れ込む非常識さ。
隠れて連れ込んで飼うつもりがあったのなら
最初からそうしてさっさとペット可の家を探せば良かったのだ。

 

犬を飼うなら旅行は一緒に

犬がいると旅行に行けないと言い出す無責任な人間は
本当に腹立たしい。あかりには二度と犬を飼わないで欲しい。
犬と離れる時間が勿体ないから当然一緒に行くか
そうでないなら旅行へ行かないものでは。

父親が学会だから預けられない、程度の日数なら
ペットホテルなり、池脇さんに預かってもらうなりすればよいのでは?

 

原則室内飼いすべき

昔とはわけが違うのだし、ペットは室内外すべき。
しかも卒業式のシーズン。冬だろう。
雪も無いが。
尚更室内に入れてやるべきだ。凍死しかねない。

夏は夏で、ペット用蚊取り線香のひとつも焚いているのだろうか?
熱中症にでもなったらどうするのだ。

 

犬嫌いの父に押し付け

あんなに飼いたいと言ったのに、犬のせいで
自分は色々我慢していると言い出し、
犬嫌いだった父親にソックスを押し付けて旭山動物園へ。
犬飼いというより人間としてどうかと思うのに
映画の作りとしてはほんわか成長物語状態。
飼い犬一頭すらまともに面倒が見られないのに
動物たちのことを考えていて忙しいとはどういうことなのだ。

久し振りに帰ってきて、ただいまと言いながら抱きつきもしない。
「虫入るから」と窓をしめてしまう冷たさだ。

 

老犬の魅力が描かれていない

仔犬とはまた違う魅力

犬は老いてもかわいい。
元気いっぱいで体力無尽蔵な幼犬の頃もかわいいが、
老いて動作がゆっくりになるがそれでも目が輝いていて
底なしに優しい老犬もかわいい。
犬の十戒を描くなら、そこが描かれるのかと思っていた。

しかしあかりがソックスをかわいがっている様子が見えない。
あかりは卒業式で袴を自宅で自分で着られる設定なのか?
何故晴れ着を着てから犬に餌をやるのか。
それで「ソックスの馬鹿」とは八つ当たり過ぎる。
おまえが馬鹿なのではと正直思ってしまう。
池脇さんは晴れ着のまま犬を抱いているが。

 

飼い主も老犬のための対応をすべき

ソックスが何歳の設定なのか。
今どきは10歳でそこまで老化するとも限らない。
段差が辛いほど老化しているなら、
段差をなくすなどの対応をしてやるべきなのに
そんな老犬をよその家に押し付けたのか。

おしめなどをしている様子も無いがどういう状況なのか。
父親が外に仕事に行っていたらあかりはどうするつもりだったのか。
病院は休みなのだろうか。
あかりの職場の人はまともそうだが
旭川から函館は
「今日『は』帰っていい」という距離ではないのだが。
そこまで言ってくれるなら休みも取らせて欲しい。
しかも急いで帰っているはずなのに9時間かかる列車で帰省。
なぜ飛行機で帰らないのか。

獣医にはちゃんと見せているのだろうか。
なにか、手遅れで治療もしようもない病気だと
診断されたのだろうか。
だから家で看取ろうと決意して、という描写があればまだしも
老衰設定で急に立てなくなる?
犬が顔を近づけようとして、でも動けないとか
近寄ってほしくて手を動かすという演出ならわかるのに、
わざわざ人間ライクに
ぬいぐるみの腕を使って、手をつなごうとさせるのも
馬鹿にしている。

 

進についての疑問

楽器への本気度

犬に指を噛まれるのを心配するほど楽器に入れ込んでいるのに
楽器を携えて砂浜は歩かない方が良いのでは。
親に言われてやっているだけなのか、心底ギターが好きなのか謎である。

ところであかりのことを、進に断らずに楽屋に入れてしまう
函館市民会館の対応も酷い。
バックヤードに入れるなら身元確認くらいするだろう。

 

あかりのどこが魅力なのか

あっち向いてホイを突然ふっかけてくるのも、
素直だと繰り返し言うのもクラスメートを馬鹿にしている感じで
あまり良い気持ちはしない。

 

他人様の犬を預かるということ

それまで室内飼いもしていたソックスを
進は玄関に繋いで外飼いしている様子だが
当然犬小屋もなければ水も置かれていない。
進の両親はかなりの毒親にしか見えないが
よくソックスを預かるのを了承したものだ。
散歩はきちんと行ってくれているのだろうか。
あかりの父は飼育料を支払って星の両親にきちんと会って
託したのだろうか。

進が留学すると聞いてあかりは約束だから見送りに行くと言うが
そんなことよりソックスはどうなっているのか。
進がいなくてもあの両親が面倒を見続けてくれるという約束があるのか。
あかりはそれに触れない。
ポケベルがあるのにメモを空港の壁に貼っていく進も謎ではある。
ロマンチストなのだろう。

まともに繋いでいないので、リードがあっさり取れ
ソックスは彷徨う。
大型犬をきちんと係留できないのは犬嫌いな人から見たら恐怖でしかないのでは。
雨の中、車の往来もある町を彷徨い、市電に乗り込む。
BGMも含めてほんわかと冒険譚みたいな描写だが
どういうスタンスでこの映画を製作しているのだろうか。

 

セラピードッグを甘く見ないで欲しい

あかりが人の家に犬の足を洗いもせず上がりこむのも疑問。
色々と迷惑をかけておいて、あかりはよくあの両親に挨拶しに行けるものだ。
意外と父親はまともに挨拶を返してくれて驚いた。

セラピードッグは訓練を受けた犬なのに
そうでないソックスを、進とソックスの意向無視で
星家に押し付ける。
良かれと思って、という体なのが最悪にいただけない。

犬は可愛がればよいだけではない。
面倒を見なければいけない。
だからこそ、謂わばいいとこ取りができるように
セラピードッグがいるのだ。
惚れた男を”助けてくれた”から犬を見直し
「これからまた仲良くしよう」と家に入れようとする。
トイレは? 散歩は? ご飯は?
すべてが描かれない。

 

父親とその周り

全体的にベタ過ぎる

豊川さんのお父さんは可愛くて良い。
少々ベタ過ぎる嫌いはあるが。
トースターやオーブンがあるのに
今どきどうやったらトーストが真っ黒になるのか。
だいぶやり過ぎだ。

 

上司がゲスな人ばかり

家族の意向を無視して妻に告知する院長もありえない。
東京からわざわざ函館に国会議員が来るのも
豊川さんの腕前や院長のクズさをアピールする為にしても
あまりにもベタだ。

中学生の娘がいる父子家庭だというのに
歓迎会と称して飲みに誘う新しい職場もどうかしている。 

 

演出のベタなセンス

函館である意味はあったか

わざわざ函館の全景を冒頭で見せて
この町でと言っているのに方言も使わないのだなというのも思う。
単に景色が綺麗っぽいところ、というだけで
それ以外に函館を使った意味が無いから
無意味なロケーション選択や無駄な演出が増えるのではないだろうか。

旭川から函館がどれだけの距離があると思っているのか。
函館空港から、親に連絡もなしにふらっと
「ただいま」と帰ってくるようなものではないのだが。
そんな設定にしたければ、東京で上野動物園で働いていて
大型犬可物件が無くて、という方が
まだしも無理がなかったのでは。
ただ旭山動物園が本州人に流行ったから使っているのではと思えてしまう。

 

わざとらしい演出

池脇千鶴さんの犬は桜の花びらを載せられたり
枠をかぶせられて毛を四角にされたりと
おもちゃにされている。
飼い主なら犬が店先の商品に触れないように
リードも短く持って気をつけて見ておいて欲しい。

百歩譲って犬があっち向いてホイは良いとして
わざとらしく人に話しかけられたら
犬に頷かせたり、尻尾で不自然に調子を取らせたり
するような演出ひとつとっても
人間善がりの映画である。

 

命はアクセサリーではない

無責任な飼い主

犬を飼い始めたのに、大きくなったから、病気になったから、
可愛くなくなったから、旅行へ行きたいから、という理由で
犬を保健所に持ち込む屑な人間は実際存在する。
命である、家族であると思っていない。ファッションなのだ。

 

犬の十戒なら、責任を問うべき

この映画ではそうした無責任さとは程遠いまともな飼い主が出てくるか
反面教師として無責任な飼い主が出てくるか
最初は子供で無責任だったがだんだん成長するか
と言ったパターンかと思っていたが、そのどれでもなかった。

あかりは邪険にしておいて自分の都合の良いときだけ
ソックスを可愛がる。最低の飼い主の見本であるが、
映画内でそれが駄目なことだと指摘されない。

これまで散々放置していたのに、
ソックスが死ぬところで突然号泣しだすあかり。
思っていたような、死を題材にして無理矢理泣かせにくる
お涙ちょうだいものですらなかった。

プリントされた写真が外に置いてある犬小屋に
溜め込んでいて、くっつきもせず埃をかぶった程度で
綺麗な状態で見つかるのも無理がある。

 

テーマがぶれすぎている

進との恋愛模様もろくに描かれず結婚してしまうし
犬との愛を描きたいのか、娘の話なのか
父娘の話なのか、幼馴染との恋愛なのか
テーマがぶれぶれでどれも薄い上、
本来のテーマと思われる犬に関してが
とても犬を飼った経験がある人が監督脚本をしているとは思えない内容で
あまりにひどかった。
正直、まともに犬を飼っている人がこの映画を見て
腹が立たないはずはないし
「犬っていいな」と思った方は映画にとどめて
犬や生き物を飼うのはやめて欲しい。
せめて勉強をしてこの映画の何が駄目なのかわかってからにして欲しい。

あかりの父親が妻に耳掃除をしてもらいながら泣いていたシーンが
一番泣けたと思う。
嫁もソックスもいなくなって娘も嫁に行き
一人残される父親が一番不憫だ。