【読了】人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

若木先生のブログでショート・ショートを書かれたと知り手に取りました。
どのショート・ショートも非常に面白かったです。

このショート・ショートは人工知能学会の学会誌「人工知能」に掲載されたもので、日本SF作家クラブ協力の元ショートショートを依頼したのだそうです。
そうした背景かつ掲載誌なので、人工知能に関するSFショート・ショートばかりでとても読み応えがあります。
ショート・ショート部分のみでなく、テーマごとに分類されそのテーマのショート・ショートが終わると解説文が挟んであるのですが
これがまた面白い。
普段AIといってもなんとなくの理解しかしていない分野なので
大変勉強になりました。

人間は死にたいとか、泣きたいとか口にすることがありますが
大抵本気ではなくて泣き言であったり、
「この状況が変わらないなら」死にたい、
「泣いて解決するものなら」泣きたい
のような条件付きであったりします。
言葉通りではないのが人間の複雑さで、確かに人工知能にとっては解釈が難しいところなのだと思います。
こうした感情の部分だけでなく、部屋のお片付けなどにも同じことがいえますが
一昔前に流行った『ファジー』が人間の求めるところであり
難しいところでもあります。

プログラミングには基本的には条件としてのデータが必要で、
単純にそれだけでも膨大になるのに、曖昧さを鑑みてもらうためには
更に膨大な量になるでしょう。
しかも、それでも人工知能にとっては、判断基準として不十分なのではないでしょうか。

対話システムは、こうした質問がきたらこう返事をする
というプログラムを組むこと自体は
かなり以前から技術的にできることでも、そのために必要な対話データを用意することが難しくなります。
こうしたことを考えると、人の脳というのは本当に不思議です。

人工脳の技術が進めば軍事転用の問題も出てきます。
新しいツールが出てきたとき、使用者のモラルなどの問題によって発生するトラブルはつきものです。
問題を考えるには脳科学・人工知能の研究者だけでなく、
倫理学・法律・社会学などさまざまな専門家が
人工脳の倫理について議論を進める必要があるという記述が印象に残りました。
何かひとつの問題を解決するためにはその分野の専門家だけではひとつの側面しか見えてこず
様々な分野のエキスパートが集まって議論することこそ
正解に近づけるのだと思います。

ツールは使う側の使い方によって、良い物にも悪い物にもなります。
折角の良いものを、良いものとして使用できるよう尽くすのが
ツールを生み出した人間の務めのように思います。

些事ではありますが、本で調べたものは覚えるが
ネットで検索しても覚えないというショート・ショートのエピソードには疑問を覚えました。
これも使う者の心得次第だと思います。
たとえ辞書で調べても、調べて「へぇー」で終わってしまえばそこまで。
ネットで検索してもそれをきちんと書き留めて反芻すれば覚えるでしょう。
苦労しなければ覚えないというのは違うのではないかと思っています。