【読了】透明人間の納屋 (講談社文庫)

伊坂先生がタイトルをあげていたので、興味を覚えて読んでみました。

元々は講談社が2003年から2016年にかけて発行していた書籍レーベル『ミステリーランド』の第一回配本。
かつて子どもだったあなたと少年少女のためというのがコンセプトだそうで、元は箱入りクロス装丁だったのだとか。
確かに内容は大人用な感じはしますが子供でも読めて、
そして衝撃を受け、かつ大人になって読み返すとまた違った感想が得られそうです。

島田先生の作品は読み始めたばかりでそんなに多くはまだ読めていませんが
ファンタジックなところから一転して現実に引き戻されて
収束されていく落差が面白いなと思います。

真鍋さんとヨウイチの交流の描写から始まり
心温まるはずのシーンなのにどこか仄暗く、
石塚桜子さんの挿し絵の効果も相俟って
不穏な空気が纏わり付いてくる感じがして、続きが気になって
一気に読んでしまいました。

個人的には、ホテルから消えたという部分と、部屋にいた女の種明かしは期待とは違ったなという感じでした。
昭和の時代でDNAが捜査に使われ始めたばかりの頃とは言え、
窓の埃の有無や蜘蛛の巣がどれぐらいで張られるかぐらいは
一般常識の範疇ではないかと思ってしまいましたし、
目撃者がいないのではなく聞き込みを徹底していなかっただけで
警察の怠慢のように感じました。
ただ、種が明かされるまでの、透明人間がホテルから出て部屋にやってきたのでは、と感じるじわじわくる恐ろしさが良かったです。

自分が子供の頃住んでいた家も、天井が安い木材だったので
節がたくさんあり、模様を眺めて物語を作っていました。
その模様のせいで面白い夢を見たり、悪夢を見たりしたことを思い出しました。

読み終えて、著者のコメントの意味もわかるわけですが、
タイトルについても興味深いものがあります。
単純に印象に残るタイトルではありますが、
本文を読んでから考えてみると、タイトルからは様々な意味が読み取れるように思います。
姿が見えなくなるということには、肉体が透明になることだけでなく
そこに居るのに気に留められないということや、ここには居ないという
意味合いも考えられるでしょう。

英文のタイトルである『The Invisible Man’s Virus』もまた、
本文でのウイルスの話や宇宙人の話なども関係してくる他、
Virusにはウイルスの他に道徳・精神上の害毒という意味もあることが
非常に興味深く思われました。