【読了】バガボンド(9)(モーニングKC)

宝蔵院での戦いを終えて、柳生へ向かう武蔵。
兵庫助と偶然出会い、お互い相手の素性を知らないのに
感じ合うものがあるという描写が印象に残ります。

芍薬の切り口に気がつくというエピソードは、
柳生と武蔵両方の非凡さを美しく描きます。
おつうとのすれ違いという点でも良いシーンです。
これをきっかけに柳生四高弟たちから招かれるというのも
いきなり道場破り、というこれまでのパターンとは異なります。

憑き物が落ちたようにさっぱりとした武蔵が穏やかで、
個人的には柳生の高弟たちと和やかに語らって終わってほしい思いがありました。
試合の度に命のやり取りが求められるのは、
確かに本物同士が本気で立ち合えば避けられないのだろうと思いはしますが
他の方法はないのだろうかとどこかで考えてしまうのです。

ですが武蔵は挑発を繰り返し相手を怒らせて戦いに持ち込もうとしますし、
武蔵のしたことが発端ではないにしろ、結局は殺し合いに発展してしまいます。
ごく個人的には少々残念でした。
城太郎は好きですが、犬に対して正々堂々と勝負を挑んだというのは無理がありますし
侵入者を犬が噛むのは誉められこそすれ秘卑怯な振る舞いとは言いません。
侵入だけで飽き足らず愛犬を殺されては、しかもそれが武蔵の弟子のしたことと知れば、柳生の怒りは尤もです。

莫大な"資産"を後継者である兵庫助に残せることを喜ぶ石舟斎に、胸が熱くなりました。

斬るなら斬れ。そのかわり、お前も道連れだという城太郎の台詞には、一度は逃げたのに戻って来た武蔵の弟子としての気迫を感じました。