【読了】終末のフール (集英社文庫)

タイトルがとても印象的です。
8章で構成され、他の7章も
はっとさせられるものから、ちょっと無理矢理な面白いものまで
韻を踏んだタイトルがつけられています。

三年後に隕石が落ちてきてみんな死んでしまう。
そんな設定の世界観の中で、日常を送る人たちのお話。

地球に隕石が衝突する可能性や、数年前に予測ができる可能性は非常に低く、この点は謝辞においても触れられています。
自分はフィクションならなんでも許されるとは思っていませんが
フィクションだからこそきちんとするべき点と
フィクションだからこそ嘘でもアリな点があると考えており
この設定については後者です。

一度は信じられずパニックになり、世界がめちゃくちゃになるかと思いきや
一旦小康状態を保ち、その中でスーパーやレンタルビデオ店を営む人がいるというのが
なんだか有り得そうな気がしてしまいます。

宗教が出て来るというのも、シェルターができるというデマが飛ぶというのもありそうです。

宗教っぽい。いつから宗教が非難語になったのか、と本文にもあるように、宗教が駄目なものであるとは思いません。
ただ、生き残るっていうのはもっと必死なもの、じたばたあがくものという台詞に共感しました。

苗場がインタビューで答えた、
“「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するしかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」”
という台詞も印象的です。

メメント・モリという言葉があるように
人はいつか死ぬけれど、いつ死ぬかは大抵の場合わからない。
それが明日なのか、十年後なのか。
死に方が自殺なのか病死なのか地球滅亡なのか。
それによって生き方が変わるのか。
悔いの無いように、と思い直し、仕事をやめたり誰かに会いに行ったりと
この小説の中にあるようなことはするかもしれません。
でも、生き方自体は変わらないような気がします。

個人的には、隕石がぶつからない可能性も考えてしまいますし。
その場合のその後の人生のことを考えると、
あまりにも刹那的な生き方に振ることは出来ないです。

終末だけど幸せ、でもなく、辛いけど頑張るでもなく
それぞれの、生きるってなんなのか、というのを
説教臭くなく描いた良作だと思います。

現実とぴったりとは重なっていないけれども、ズレながら重なっているとうのフィクションのいいところだと思います
という先生の言葉どおり、事実ではないけれど事実と重なって
考えさせてくれる小説です。