残り全部バケーション (集英社文庫)

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著者 :

伊坂幸太郎

集英社発売日 : 2015-12-17

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それぞれ別の雑誌に掲載された短編を、

最終章を書き下ろすことでよりまとまった結末を定時した

連作短編です。

伊坂さんらしい章ごとの登場人物のかさなりや

小さな伏線の積み重ねが相も変わらず小気味良いです。

主人公は全編登場している溝口になるのでしょうが、

けして正しい人間ではない。善悪で言うなら悪人です。

しかも自分で岡田をスケープゴートにしておいて、

復讐をするというのも理論的ではありません。

なのに、憎めずどこかつい味方してしまうような

コミカルな魅力に溢れています。

確かに、

『苺味とレモン味みたいにラベルが貼ってあるわけじゃない』

わけで、100%良い人、100%悪い人、というのはいない

というところがリアルです。

そんな小さなリアルが散りばめられている中だからこそ、

迷惑メールのようなナンパに返信して家族でドライブ

などという突拍子もない非現実的なこともすんなり受け入れてしまうのです。

理論を邪魔するのは感情、だけではないのでしょうが

すっとこれが言えるところが小気味よいです。

人を騙すには真実や事実じゃなく真実っぽさというのも

確かになと思いました。

その場の雰囲気に流されるのが人でしょう。

それで言えば。毒島の赤坂スイートルーム事件も

真実っぽさで相手を飲んだからこそ成立したわけです。

自分は岡田が一番好きで、この人も現実にいたら

けして仲良くなれるような”いい人”ではないのですが、

つい気になってしまうキャラクターです。

残り全部バケーション

タキオン作戦

検問

小さな兵隊

飛べても8分

の5章構成ですが、

中でも好きなのはタキオン作戦と小さな兵隊です。

タキオン作戦では

虐待を受けている少年を岡田が助けようとするのですが、

実際に介入して助けるわけではなく

怪しげで、でもつい父親本人としては、信じないにしても

心に引っかかって虐待をしづらくなるような茶番を

複数の人間を巻き込んで仕掛けるという助け方が面白いです。

少年自体の岡田が描かれる小さな兵隊は、

岡田が友達と言い切れないもののそれなりに深い仲になった

と思っている一人、映画監督になったクラスメート視点。

問題児 答え児、という発想も面白ければ、それに呼応するような

「いつだって先生の出す問題を解くのは俺たち」

という台詞は面白くもあり、感動的でもあります。

児童を守ろうとしている先生に、こんなことを言って

一歩もひかず先生を助けようとする児童なんて

ヒーローだなと思うのです。

飛べても8分のラストはリドル・ストーリーとなっており

賛否両論のようですが、自分はこのラストで良かったと思います。

メールが届いてそれを開いて読むところまで描いてしまったら

一気に小説のテンポの良さが失われてしまうと思うのです。

残り全部バケーションに書かれていたとおり、

(これは文庫本にて追加された箇所らしいですが)

友達を作ろうとして出会った家族と、一緒に食べた美味しいご飯、

その中でスイーツが美味しかったのが印象的だったわけで、

やはりブログ主は娘の名前をHNに貰った岡田だと思いたいですね。

犯罪や離婚、復讐など暗い話題ばかりのはずが、

どこか前向きな感じがする話にしあがっており、

読後感は良いです。

なるほど、過去はバックミラーを見る程度に

時々確認するにとどめて、ドライブにさえ入れておけば

前に進んでいけるのが人生だと思えるストーリーでした。

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