【読了】ガソリン生活 (朝日文庫)

かわいらしくて心温まる素敵な作品でした。

車の擬人化というと子供向けのアニメや本でありがち設定に思うかもしれませんが
そこは伊坂先生。ひと味違います。
ミステリー要素がからみますし、車の設定も面白い。
車たちの世界の中でのことわざやよくある言い回しが設定されていたり、ガソリンがなくなることを人間にたとえるならお腹が空く、ではなくお金がなくなる、と設定されていたりするのも良いなと思ったポイント。
ワイパー動く、などもそうですし、人間なら「神かけて」がマツダ創業者の名にかけるところも素敵です。
Mr.タンクローリーなど、映画の話が車たちの世界に伝説として浸透しているところもにやりとします。

ストーリー自体はシンプルで読みやすいです。
車は車同士で会話はできるけれど
人に伝えることはできず、自転車やバイクとも言語が違う。
ただ人間に乗られ、持ち主である人間に愛着を覚え、彼らの話を聞き、
それを車同士で情報交換することしかできず、
トラブルに巻き込まれてもやきもきするだけで車がなにかをするわけではない。
それなのにとてもおもしろいし、だからこそおもしろいとも言えます。

ネタバレになりますが
下手に奇跡がおきて動けるようになる、運転手に声が聞こえるというのが
ないところが良いです。
あれだけ車は能動的に動けないことを描写した後での、知らない人がみどデミに乗ってくることの恐怖感、
『まいった。盗まれた。僕が。』
という本人の言も良かったです。

登場する人間たちも、特別なにかが突出しているのではなく
次男はともかく長男はいわゆる良い人、普通の人で、そのあたりも面白いですね。
彼らが好きなガンダムネタを我知らずみどデミが「殴ったね」と言い出すところは笑ってしまいました。

それでいて最後はちょっとハートウォーミングな小さな奇跡、
そして童話のような終わり方。(私はエンデのモモを思い出しました)

誰もが読み終わった後は、少し自分の家の車に優しくなるのではないでしょうか。