ミュージカル『刀剣乱舞』~三百年の子守唄~ (円盤)ネタバレあり感想

ミュージカル『刀剣乱舞』~三百年の子守唄~ [DVD]
崎山つばさ (出演), 荒木宏文 (出演)

幕末では、に悪影響を及ぼさないよう元主と口を利かない
というルールだったのが、
むすはじでは普通に出会って会話している。
もしかしたらこの矛盾も伏線だとしたら面白いが
今の所は安定だけが可哀想というイメージに自分の中でなっており
本作ではより一層刀剣男士が歴史に干渉してしまうストーリーなので
その辺りがやや疑問なところ。

徳川家の重臣が戦で死んでしまい、刀剣男士が成り代わって
子育てをすることで歴史を守るという
かなり奇抜な設定。
単純に面白い。だが、その為になら人間に深く関わっても良いのか、
それだけ長くいるのに割と検非違使のやる気がない、
重臣としての役どころであれば刀剣男士が人間相手に戦っても良い
というのはちょっとどうなのかなと思ってしまう。
総隊長加州清光が、石切丸に任せて自分はちょっとお休み、
というような発言をしていたが
初期メンバーから石切丸だけが残り、あとの5振は新男士。
結構なチャレンジだったと思うが、キャストさんが皆さん素晴らしく
とても安定感があった。
特に千子村正は、ゲームで登場した時はちょっと変なキャラ
としか思えなかったし、それを生身の人間が演じられるのだろうか
と思ったくらいだが、妖艶で一風変わっているが内に秘めたものがある
素晴らしい刀剣男士に仕上がっており、
ゲームのキャラを今までより好きになれた。

石切丸は服部半蔵、蜻蛉切が本多忠勝、青江は酒井忠次。
物吉が鳥居元忠の役を演じるが、
村正と大倶利伽羅は徳川に仇をな妖刀だから、
戦うこと以外に興味ないからと言うものの、
大倶利伽羅は榊原康政として後から加わる。
石切丸や蜻蛉切、物吉は割と進んでやりそうだし
青江も臨機応変にやってくれそうだけれど
村正と大倶利伽羅が率先したら可笑しいと思うので
この辺りの設定はキャラ通りな感じで嬉しい。

石切丸というキャラは好きではあるのだが
阿津賀志山異聞でも、巴里公演で石切丸が謝る台詞が追加されるまで
正直ずっとモヤモヤしていた。
「ここは新選組ではない」が、新選組で培ってきたものを
信念として持って顕現している清光にそれを言うのは
存在否定にも等しいのでは、と自分は怒りすら覚えた。

本作でも、正直自分には、
「こんなものか」と呟く大倶利伽羅に
「戦がし足りないならつきあってあげるよ」と言い、
更に「軽いな君の剣」と言うのは喧嘩を売っているようにしか見えなかった。
実際イライラして喧嘩を売っていたとも言えるかもしれないが
そんなに君はいつでも正しいの? と思ってしまう。
勿論脚本上言いたいことはわかるが、
後の「重くなったね」という展開の為の布石とは言え
随分偉そうな態度に見えてしまうのがとても気になる。

脚本で気になると言えば、「えいえいおう」を
全部蜻蛉切が言っている。
えいえいおうという鬨の声は、鋭応であり、
大将が「えいえい」、みなが「おう」と答えるものだ。
いくぞ?おうを蜻蛉切が一人で言ってしまうのは誤り。
誰も現場で正す人はいなかったのだろうか。

信康がとりかぶとを石切丸に持ってくるシーンがある。
とりかぶとの花言葉は騎士道であり、あなたは私に死を与えた。
日本に花言葉が導入されたのは明治なので正直関係無い気もするが
もし石切丸が現世の本丸で花言葉を知っていたら、
さぞかし複雑な気持ちになっただろう。
同じく花言葉で言えば、大倶利伽羅が吾兵のお墓に供えようとした
ミヤコワスレは「しばしの別れ」だそうだ。

村正が井伊直政と名乗って来るところはとても好き。

「この歴史の流れなら切腹しなくてもいいのかも」と物吉が言うのは
刀剣男士としてどうなのだろうと思った。
希望を抱くのは良いが、歴史を守る為にここまでしているはずが
切腹しなかったら歴史が変わってしまう。
ここも脚本で気になるところ。
大倶利伽羅が、
「戦がない世の中になったら俺たちはどうなってしまうんだろうな。
だが俺もそれを見てみたい。
全ての戦が終わったらまた来る。だから今はまだ花は供えない」
と言うシーンはとても良かった。
刀は戦の為にあるものと考えており、
”用済み”になったらどうなってしまうのか。
それでも、平和になった世界を見てみたいという彼の思いが切ない。
5人で並んで、石切丸さんも並びませんか、楽しくはない
並んで脱ぐんだってさ、きっと楽しいよ 楽しくはない
の件は笑った。
ただ、この後の「折角だけど用があるんだ」の重みを思うと
5人が能天気なようにも見えてしまう。
芝居で見えているシーンだけでなく実際この時代を生きてきたのだから
もっとわかっていても良さそうなものだ。
石切丸が一人で抱えている表現なのもわかるが
ちょっとどうなのだろう。

罪があろうとなかろうと人を殺めていい理由なんてあるとは思えない。
御神刀とは言え、とても潔癖であり、その上で多分
分かっていて自分が服部半蔵の役をやると言い出しだのだろう石切丸。
青江が、
「わけあえるときはわけあおうとおもうんだ 悲しい役割はね」
というのが達観した優しさで青江らしい。
「ここは僕が」と言う物吉くんも、それに対して
「あなたは幸運だけを運びなさい。こういうことは妖刀の役割です」
と村正が言うのも、更に蜻蛉切が
「忘れるなよ俺も村正だ」
と言うのも泣かせる。

信康の、もう刀を握れない、父の跡を継ぐのは自分ではない方が良い、
だから切ってくれという理由は個人的には納得がいかない。
その先の展開は思わず見入ってしまう。
「ここで折れても貴様を倒す」という台詞はぞくっとしたし
全員での戦いにはらはらもした。
半蔵が手を下すまでもなく歴史通りになったかと思ったが
結局生きていて掛川の百姓吾兵を名乗っていたという展開。
吾兵の分も生きていた、という言い方の方が良いのだろう。

「笑いなよ物吉くん」という言葉や、
物吉の「よく生きられましたね」は泣かされた。
「一緒に笑ってあげることくらいはできると思うんだ僕でもね」
という青江の大人な物言いはとても好きだ。
馬当番だった、急いでるけどもたもたしている
崎山さんのお芝居も可愛い。

キャストさんは本当に皆さん素晴らしく非の打ち所がない。
spiさんをこれまで存じ上げなかったので、
2部であまりの歌の上手さにびっくり。
本編はちょっと重めだったが、2部があることが救いにもなっていて良いと思う。