東京マグニチュード8.0 ネタバレあり感想

東京マグニチュード8.0 コンプリート DVD-BOX (全11話, 275分)

実際にはありえないという設定でマグニチュード8.0に設定したのに
それを上回る東日本大震災が発生してしまったということを聞き
どうも気が進まなくて見ていなかった。

実際に今回見てみて、東日本大震災後に見たからとは言え
このアニメが作られたのは阪神・淡路大震災の後な訳で
更には冒頭で膨大なリサーチに基づき
演出を除いてはリアルに作ったように言っている割には
ストーリー展開にはかなり疑問が残った。

確かに初めてに近い試みで当時としては新しかったのかもしれない。
地震自体の描写はリアルに感じた。
ただお涙頂戴というかストーリーが昨今流行りの感動系、
泣きたい人が見るアニメという感じがしてしまい、
結局リアリティに欠ける仕上がりになっているように思う。

評価が高かったはずなのに、と改めてネットの感想を検索してみたところ
ある程度一般受けはしていたようだが、
疑問を感じていた人も一定数いた様子。

自分が引っ掛かったのは、まず登場人物たちのキャラ付けだ。
主人公の未来は中学一年生で名門女子校に通っている割には大変幼く
大人が考える至らない今時の子供、という感じ。

弟の悠貴は良い子だが、やはり小学三年生にしては幼い。

そして真理さんも良い人だが、冷静で前向きな割には
娘のこととなるとかなり混乱するのか行動が一貫していない。
ライダーとは言え女性なのに、随分とパワフル。

自分にはオチが納得がいかず、また阪神・淡路大震災を参考に
真剣に作られたにしては
『90秒後に滝川キャスターから衝撃のニュース発表!』
とテロップを入れては最後に地震のニュースの衝撃的なところを流す
というやり方に真摯さを感じなかった。

震災のリアルさ、恐ろしさ、どうやって生き抜いていくのか
人の恐ろしさや触れ合いを描きたい物語というよりは
未来の成長物語に全てのシチュエーションが利用されたように思った。

真理さんのバイクは使えないほど壊れていたのだろうか。
それでも普通何かと使える工具などは備えているはずなのに
ケーキしか持ち出した様子が無いのは違和感。

何度も誕生日と言えば丸いケーキ、とケーキにこだわる未来だが、
もう中学生でしかも自分の誕生日ではなくお母さんの誕生日。
本当に丸いケーキが良いなら自分が作るなり
買ってくるなりすれば良いことだ。
あまりに我儘で、弟と逸れたことで少しは省みるかと思いきや
全くそんなことも無い。

これはこのアニメに限った話ではないが、
お台場で震災に遭った後その場で一夜を明かし
翌日になっても何もせずにごろごろしている大人たちの描写があったが
こういう人たちは何を待っているのだろうか。
闇雲に動くのは危険とは言え、
他力本願で誰かがなんとかしてくれると
思っているように見えてならない。

自分だったら家族の安否確認ができない状態であれば
なんとしてもまず帰ろうと思う。
知らない土地ならいざ知らず、知っている場所であるのだし
普段から家へのルートくらいぼんやりでも頭に入れていないのだろうか。
それと元に取り敢えず歩いて帰るだろう。
というか、東日本大震災のときは実際歩いた。

何かを待っていて自分たちでは何もしない人々。
自衛隊の人など一部の人が頑張っているのを当然と思い
文句すらいう。子供をかまわないどころか押しのけるような大人たち。
そんな人たちばかりが出てきて違和感があった。

この日本で、もちろんそんな馬鹿な人間も残念ながら存在はするが
馬鹿ばかりであることは無理がある。
演出上とは言え真理さんがとびきり良い大人で
それ以外はクズばかりという描写は見ていて不愉快だった。

まともと言えるのは
駐車場で出会った人やボランティアの人くらいだろうか。

怖いのは揺れ自体よりもその後の倒壊や崩落、
そしてパニックを起こしたりイライラしたりする人間たちだ。
大人たちもひどければ、未来も同情するには性格が悪すぎ、
一度離れ離れになって堪えたかと思えば悠貴への態度も改善されず。
未来が基本的に謝ったりお礼を言ったりすることが少ないのが
とても気になった。わざとそのような描写をしたのだろうか。

カレーうどんの配給のシーンで、未来は牛乳が単に嫌いなだけのようだが
アレルギーについての描写などは無く、まだ阪神・淡路大震災の頃には
浸透していなかっただろうなとも思った。

古市さんのおじいちゃんの言葉にはちょっと泣きそうになったものの
おじいちゃんに対して「大変なのに」と泣く未来のその想像力は
なぜ真理さんには向かわないのか疑問にも思う。

東京タワーすら倒壊する非常事態の中で、建物の近くを歩くのも危機感を覚えるべきかと思うのに
建物の中に入ってしまうのはちょっと驚きだった。
ヘルメットが頭に当たって血まみれになっても平気な真理さんは
本当にパワフル過ぎ。

珍しく未来が役に立とうとバイクを借りてきたのに
借り物のバイクを倒していることも正直気になったし、
折角なのだからバイクを使うべきだろう。

ロボットおたくと人を馬鹿にし、人が好きなものを
いちいちバカにして笑い、人の事情も考えない未来には本当に不愉快になったし、
子供扱いするなと言う癖に行き先を告げるという約束も守れない。

「二次災害を防ぐためにロボットを使ってるのにきみたちが怪我したら意味ない」
「物事の判断はできる年なんだから」
というレスキューサイドの言葉は、個人的にはこのアニメ通して
唯一の同意できる大人の発言だった。

真理さんの代わりに未来がおばあちゃんと女の子を探している、
と言ってあげるのは、未来の成長や、他人の方が冷静になれる描写として
良いなと思ったが、
いくら取り乱していたとしても、自宅で一旦あそこまで落ち込んで
まず避難所ではなく遺体安置所に来ておいて
お線香を焚いて顔の確認もせずにいつまでも落ち込んでいるのは
真理さんらしくないし、ちょっと共感できなかった。

震災をリアルに描くのであれば、トリアージなどのシビアな部分をそのまま描けば良かったことで
黒にされて真理さんが食って掛かったり
それらを全部見ていたのにすっぽり記憶から抜け落ちて
弟の幻と一緒に家に帰ったりする未来というのはもう
成長ではなく病んでいるだけ。
カウンセリングや弟のいない世界を両親と乗り越えるという描写ではなく
あくまでも弟の幻に励まされ、落ち込んでベッドに転がって
というのが自分には納得できないオチであり
自分には合わないアニメだったなと思う。