【読了】月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

神話を元に歴史考証などもきちんとした上で
それでもフィクションのファンタジーとして仕上げられた作品。

大和

朝廷が律令制で日本をまとめあげようとしている頃。
遂にその手が九州地方まで到達する。
時の流れに違和感や反発を覚えても、従うしかなく
その中で捨てなければならないものに戸惑い、正しいものがなんなのか迷う。

同じように神話、古い時代の日本を元にしたもののけ姫でもやはり
似たようなテーマが取り上げられていたが、
より実際にもとづいてリアルに穢れや伝統などについても描写されている。

カミなのか、オニなのか。
確かに殺した後で祀ればカミになるという都合の良いシステムも存在する。
飽く迄も人間から見て、都合が良いか悪いか。
益獣と害獣の判断と同じだ。

だがそれでも、アツシロたちが間違っていると簡単に部外者が言えるものでもない。
他の大きな村が勝てなかった朝廷相手に、小さな村が勝てるわけもなく
働き手を何年も朝廷に取られて村が立ち行くわけもなく
かと言って米を作ったからと言って搾取されるばかりで暮らしが楽になるわけでもない。
それでも、このままでは今すぐ村が潰されてしまう。

アツシロたちも、カミンマも、タヤタも、守ろうとしているのは同じなのだ。
何を守ろうとするのか、なんのために守るのか、それが違うだけだ。

それがこんなにも悲しい結末を迎え、
殺されるとわかっていて尚キシメを愛し、死ぬとわかっていてもそれでも
キシメを愛しいというタヤタがあまりにも切ない。

掟は人の命より大事。
本当にそうなのか、と、現代に生きる自分は思ってしまう。
大事なのはわかる。だがそれでも、他に方法はなかったのだろうか。

掟もカミも失われた村で、それでも人は生きていくしかない。

あとがきで、日本は単一民族国家ではないとすっと言い切っているところが
先生らしいなと思い惚れ直した。

2015.4.4