一乗寺下り松の決闘。
原作では
「我れ神仏を尊んで神仏を恃まず」
と言う武蔵。本作では合掌してはいるものの、神ではなく人に手を合わせているところが
人の中で人として泥臭く生きてきたバガボンドの武蔵の辿り着いた境地であると思わせます。

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本来は姉もおりお通に惚れられ助けられ、沢庵に世話を焼かれ
城太郎がついて回る武蔵。
それを父とうまく行かず、野生の獣のような孤独を抱いた男と設定付けられた本作の武蔵が、人に対してありがとうと口に出来るということが
とても感慨深いものがあります。

そのまま逃げても良かったものを、圧倒的不利な戦いに挑む武蔵。
感謝を胸に逃げずに挑むことが、武蔵なりの礼の尽くし方であったのかもしれません。

強豪であっても一瞬の隙を突かれれば呆気なく斬られる。
1対1を70回と捉えたところで、そううまくはいきませんし
体力にも限界があります。
とは言え、数を頼んで吉岡側に油断があり、
また技術や覚悟の差が激しいこともまた事実。
吉川英治先生が描いた吉岡一門との死闘。
死闘自体をなかったものとした司馬遼太郎先生。
そんな巨匠たちの描いた武蔵に勝るとも劣らない
井上先生版の吉岡一門との戦い。
迫力と緊張感に満ち、読んでいるだけで泥や夜露、血や汗の匂いがしてきそうです。

先生が仰っていた9年描いてやっと書けるたった一言とは、
やはり有難うなのかなと邪推しました。

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