【読了】ふなふな船橋

朝日新聞出版
発売日 : 2015-10-07
いつものばななさんのトーンなのに、現実にある物の名前や地名がたくさん出てきて
その違和感がちょっとおもしろいです。

ふなっしーである必要がない、という感想も見かけましたし
それは確かにその通りなのですが、本文中にあるように
人それぞれに側にずっといてくれて救われる存在というものがあって
それがたまたま花ちゃんや花子ちゃんにとってはふなっしーだった
というだけのことです。
そこに優劣は無いと思います。ドラえもんやミッキーマウスなら良くて
ふなっしーなら駄目という理由は無いし
その発想は俊介さんサイドの見方なのだろうと思いました。

自分も実はふなっしーが最初に流行ったときには
なんでまた、と思ったクチなので俊介さんの考え方もわからなくはありませんが
色々知った今はふなっしーがちゃんと好きですし、人気が出る理由もわかるなと思っています。

スピリチュアル系、とも評されるような、夢のお告げのような
不思議なことはさほど違和感がなく、
それよりも俊介の言動がいちいち引っかかりました。
ふなっしーをキャラクターグッズの中でランク分けして下に見ているところもそうですが
花ちゃんを見かけて声をかけてきて、「幸せだ」と答えるところもデリカシーがなければ、
花ちゃんが自分の知らない男の人といたからといって
ショックを受け、しかもそれを告げてくるところに
男の幼稚さと甘えを感じました。
更には幸子の予言通り戻ってこようとするわけですが
保険を用意した状態でよりを戻そうとし、しかもキスまでしてくるのは
早川さんにも大変失礼で、花ちゃんのように愛情がない私にとっては
かなり最低最悪の男のように思いました。

でも、そんなシーンの後に動揺している花ちゃんの為に
普段は外に出ない幸子がなんでもないことのように外へ出てきて、
お店の予約をして奢ってくれるところがなんとも颯爽として恰好良く
本当に素敵な人です。

ですが、グッピーは公園の池に離してはいけないです。(苦笑)
グッピーが死んでしまうだろうというのもそうですが
うまく環境が合って生き残ってしまったら、それはそれで
生態系を壊すことになるので、冗談でも言って欲しくなかったなぁと。
それを言うなら、相手の意思を確認せず生き物をプレゼントしてしまう
よしろうもそれはそれでどうなのか、という感じですが
一応追加プレゼントはあったのと、花ちゃんは良いことと認識しているようなので
まぁこのあたりは当人同士が良ければ良いのでしょう。物語なのですし。

”それでも、知らない人といるときの緊張感がほとんどなかった。そう言えば、幸子とはじめて会ったときもこんな感じだった、と私は思い出した。ほんとうに縁のある人とは、夢の中やイメージの中でもう出会っているものなのかもしれない。”
この感覚に、とても共感します。

イケメン君が言っていた、
“男と女だって、まず人間関係からだよな。人としてだれかと知り合うのに、いろいろ考えて用心しなくちゃいけない、そんな世の中が俺には合わないんだ。”
というのも頷いてしまうところです。
こんな世の中なので無警戒なのは良くないことはわかっているのですが
そればかりなのはとてもつまらないことです。

“街って、その人だけの地図でできてるんだ。それぞれ違う。”
という言い方もとても好きでした。
同じ街に住んでいても、暮らし方は人それぞれ。
ベッドタウンの家に寝に帰るだけで勤務先とその周囲のランチタイムが安いお店がマッピングされている人もいれば、
家も学校も地元でひとつの街の中で完結した生き方をしている人もいるでしょう。お買い物もスーパーではなく商店街がマッピングされているような。
小説とは関係ないのですが、幼少時自分がマッピングすることが好きで
探検した街を地図にするという教育番組が好きだったのも
自分の今の生き方、行動を見える化したかったのかもしれないなと
思いました。

重い話はぽこぽことよく考えればたくさん出てくる小説ですが、
嫌な読後感が残らない読みやすい小説だと思います。