【読了】カエルの楽園 単行本

ファンタジーらしいテイストで描かれるカエルの冒険譚。
とは言い切れない問題作です。
読んでいて初めからずっと気持ち悪さが拭えないままラストを迎え、非常に後味の悪い物語でした。
まったく救いが見えないと感じました。

基本ストーリー自体は難しくなく、一気読みができると思います。

一番中立で冷静に見えるソクラテス。
彼と共に行動をしてきたロベルトが次第に三戒の影響を受ける
までは良いのですが、
外の世界の厳しさを身をもって知っていたはずの彼ですら
三戒を信じるあまり入れ込みすぎ、懐疑的なソクラテスを敵視するところが
とても怖かったです。

三戒はそれ自体は悪いものではないと思います。
理想として相手を信じる、争わない、と掲げる分には良いでしょう。
でもそれだけでは身を守ることができません。
万が一のときにどうするのか、そうならない為にどうするのか。
理想を掲げることで思考停止してしまうなら意味がないのです。

そしてまた、敗者が勝者に戦後に一方的に押し付けられたものである
という点も考えるべきです。
勝者が「相手がもう自分に歯向かってこないように」と
無理なことを押し付ける内容を突貫工事で作って突きつけたものを、
「受け入れて自分たちのものだとしたのだからナパージュのもの」
と言い切るには、よくよく内容や世界情勢を見極めて
内容を吟味する必要があります。

ルールは飽く迄ルールであり、そのルールができた背景が変われば
現在の状況に見合った内容に改訂していくのが当たり前です。
盲目に兎に角変えてはいけないのだと信じるのでは、
もはや宗教であり戒律です。

押し付けたスチームボートが、自分が考えたものと文言が変わっても
別に気にしていないような、そんな代物なのです。
そして、スチームボートが飛ばなくなった地域から
ウシガエルが侵攻しているという事実にも目を伏せてしまい
まやかしの論理で自分たちをだましていきます。

特に気持ち悪いのが、
もしウシガエルがナパージュへ侵入してきたら
もし話し合いに応じてくれなかったらどうするのか
などという当然の疑問に対して、
三戒教のカエルたちは「そんなことはありえない」と根拠もなく否定し
相手の意見を否定するばかりで代替案を出しもしないというところ。

更に平和を愛すると口では言い、
敵であるウシガエルは話し合えば必ずわかってくれると言いながらも
自分たちと意見が違うツチガエルを全否定し、
処刑や残虐な罰を与えるなどまったく矛盾しています。

その理由として、ナパージュのカエルは元々残虐であるという
こちらも根拠の無い作り話を繰り返し、
先祖が悪であれば子孫も当たり前のように悪であると主張します。
自分自身もツチガエルであるはずにも拘らず。

ラストはあまりに酷い反面、本人が納得しているのなら仕方ないのかなとも思いました。
でも自分はローラの立場にはなりたくありません。

ソクラテスはなぜ、国を捨てて辛い旅をしたのでしょうか。
国を守ることを考えることは、できなかったのでしょうか。
血気盛んな若者たちが、危険な旅に出るほどの勇気もあったなら
1対1の戦いは無理でもなんとか敵から国を守ることはできなかったのかと
ふと考えてしまいました。

最後の『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。』には苦笑いしてしまいました。

とてもわかりやすい内容だと思います。

でも、この中に出てくるデイブレイクやフラワーズのような人にとっては
この物語は決めつけであり、”実際はこんなことにはならない”もので
折角のわかりやすい物語ではあっても伝わらないのかなとも思いました。

一人でも多くの人に伝わることを願います。

 2017.4.9