3月のライオン【前編】(映画)ネタバレあり感想

3月のライオン【前編】 DVD 通常版

神木隆之介 (出演), 有村架純 (出演), 大友啓史 (監督) 

若き天才ともてはやされる17歳の将棋のプロ棋士・桐山零。 しかし彼には、家も家族も居場所も─何もなかった
中学生でプロ棋士としてデビューした桐山零は、東京の下町に一人で暮らしている。幼い頃に交通事故で家族を失い、父の友人である棋士の幸田に引き取られたが、自分のせいで幸田家に亀裂が入り、家を出るしかなかったからだ。
深い孤独を抱えてすがりつくように将棋を指し続けていたある日、零は近隣の町に住む川本家の3姉妹と出会い、彼女たちとのにぎやかな食卓に居場所を見出していく。
温かな支えを胸に、闘いへと飛び込む零。若手NO.1を決める新人戦、最高峰を決める師子王戦― それは、様々な人生を背負った棋士たちが、頭脳と肉体と精神のすべてを賭ける壮絶な闘いだった。
ところが、ある事件が川本家を襲い、さらに3姉妹を捨てた父親が現れ、耳を疑う要求を突き付ける。一方、幸田家も子供たちが父に激しく反発し、崩壊へと向かっていく。
大切な人たちを守るため、強くなるしかない― 新たな決意のもと獅子王戦トーナメントに挑む零。トップには、将棋の神の子と恐れられる宗谷名人が待ち受けていた─。

https://amzn.to/2MwbQ4g

結論から言うと

原作の深みのある人間模様と
将棋の面白さ、怖さ、そのどれもまともに描かれず
上っ面だけのチープなストーリーになってしまっており
役者さんはすごい人も出ているのに残念な内容だった。

キャラが立っていない

概ねストーリーは原作をなぞっているのだが
あまりにも表層だけで浅すぎて残念だ。
漫画なら可愛い絵柄や書き文字などで緩和されたり
メリハリがついたりするところが
実写になるとただ静かで淡々としている。

キャストが発表されたときから、
零ちゃんが神木隆之介さんなのは素晴らしいと思った。
後藤の伊藤英明さんも良かったと思う。
自分としては他のキャストさんはみんなイメージが違った。

実際映画を見て、スミスと一砂が最初誰かわからなかった。
スミスが中村倫也さんなのすら気が付かなかった。
やや茶髪のようだが、金髪にするのは駄目だったのだろうか。
スミスと二階堂が並んだ時髪型が被って見えた。
見た目だけでなく、二人のキャラが伝わらない。

林田先生も、高橋一生さんは好きだしよく演じてくれているとは思うけれど
脚本的になんで林田先生が零ちゃんを気にかけてくれているのか
理由が全く伝わってこない。
仕事中にPCで将棋を見て大声をあげて生徒を早退させて、
なにか違う。

 

人間の描き方が不十分

3月のライオンの魅力のひとつは人間の描き方で、
将棋を軸に棋士や周りの人々の人生が描かれているところが素晴らしいのだ。
映画版ではキャラクターがあまりにも描かれず浅くて
スミスや一砂などの棋士たちの魅力も
あかりさんたちが零ちゃんにとってどんな存在なのかも
わからない。
幸田さんは比較的丁寧に描かれていたと思う。

島田さん役の佐々木蔵之介さんも良いのだが
折角の「やっとこっちを見た」のシーンは
もっと時間をとってほしかった。
テンポが早くて原作の台詞をそのまま詰め込まれていて残念。
良い、かつ重要なシーンだからこそ丁寧に描いてほしかった。
正直、半端に安井さんや蜂谷を入れたり
あかりさんとの出会いから描いたりするより
そういうところに尺を割いて欲しい。

原作で最初はどういう人なのかと思わせた香子が
話が進むにつれ寂しさ、可愛さなどが見えてくるのも好きなのだが
実写で見るとキツさが目立つ。
原作の猫のような感じが、情緒不安定な感じに見える。

山崎順慶も出す必要があったのだろうか。
零ちゃんの台詞でしかフォローされない
半端な描写でまるでただの悪役。

原作は連載中なのだから最後まで入れられる訳もないのだし
それならば半端に先の話まで入れるよりも
将棋を描くのかあかりさんたちとの日々を描くのか絞るなり
将棋にしても零ちゃんだけを描くなりした方が良かった気がする。
零ちゃんが辛い身の上なことはわかるが
好きでもないのに将棋を打っている、という割に
一生懸命将棋に向き合っていることなどが伝わってこないから
島田さんに目を覚まさせてもらったときの重みもわからないし
香子さんに惚れているから後藤が嫌いなのかな という
チープなストーリーしか見えてこない。

将棋についての説明が全くないのも問題だと思う。
そこをカットしてしまうのは、将棋は描かないという決意の表れなのだろうか。

二海堂が漫画登場時は変な子なのかと思いきや
すごく純真でとっても良い子で素晴らしい棋士なのが良いのに
映画ではただうざ絡みしてくる太った人になってしまっている。
モモちゃんとの件があった方が良かったのでは。
特殊メイクで染谷さんに演じさせた意図はなんだったのだろう。

「気持ち悪い」のシーンもとても重要なのだけれど
いつの間にか研究会に入ってしまっている。
ここに至るまでの二海堂と島田さんの関係、信頼感
二海堂の零ちゃんへの思い、島田さんの人となりが描写されないと
研究会に入っていることの意味が無い。
零ちゃんが島田さんに対してどう思っているのか
ただ舐めてたら負けた相手でしかないこの映画では
折角の大盤解説でばん、と駒を貼って走り出す
漫画の恰好良いシーンも後藤の煩さばかり目立って台無しだった。

加瀬さんは好きだけれど、冬谷には合っていない。
「美しかったのに」の言い方が普通で不満を伝えているような言い方でがっかりだ。
島田さんの人ではない、という前フリもあったのに。
もっと人間味の無さそうな演出はいくらでもできたはずだ。

川本家がしょっぱなで零ちゃんが棋士だと知ってしまうのも
正直なんだかなと思った。

前編でじっくり島田さんを師と仰ぐまでを描いて
後編で島田さんと宗谷冬司の戦いを描いて
俺がおまえを倒して島田さんの仇を取る、とかでは駄目だったのか。

その人の内面が丁寧に描かれていないのに
漫画通りの台詞を言われても浅くて全然重みがなかった。
名言の無駄遣いで寧ろ冒涜に感じてしまうレベル。

漫画を読んでいない人には是非漫画を読んでもらいたい。
もしくはアニメでも良いので、本当の3月のライオンの魅力に触れてほしい。

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

羽海野 チカ  (著)

投稿者: saya

京都生まれ北海道育ち東京都在住 物書き/フォトグラファー/ハンドメイド作家 創作庵 月雪花 所属 幕末歴史研究会 花待会 主宰 小説・記事の執筆、写真撮影、手作り雑貨の作成などを中心に創作活動を行う。

“3月のライオン【前編】(映画)ネタバレあり感想” への1件の返信

コメントは受け付けていません。