罪の声 単行本 – 2016/8/3
塩田 武士 (著)

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京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった。「ギンガ萬堂事件」の真相を追う新聞記者と「男」がたどり着いた果てとは。渾身の長編小説。

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三億円事件などもそうだが、こうしたフィクションは
多分多くの人が真実の片鱗を求めて読むし、
大方の人が期待通りの内容で無いと感じがっかりするのが常ではないだろうか。

文章自体は読みやすく、先への興味で読み進められるし
実際の事件を調べた上で書かれていることは想像がつく。
歴史小説などでも同じことが言えるが、仔細に丁寧に書こうとするとうしても事実の羅列が続き、合間に登場人物の感情が入る感じになるので
中々感情移入しにくくなるのは残念なところ。
また、共感できるような魅力的な人物が自分としてはいなかったのも、人によっては事実の羅列が多く冗長と感じられる要因のひとつではあるのだろう。
ハイネケン誘拐事件ともっと絡み合う物語なのかと想像して読み始めたこともあり
犯人像には拍子抜けしてしまった部分もある。
物語の幕引きとしては期待していた方向性とは異なったものの
一定の救いがあると思えるラストで良かった。

意識してでなくとも自分が犯罪に関わっていたと知った時、真実を知りたいという気持ちと
恐ろしくて知らなかったことにしたい気持ちとが
湧いてくるのは人として当然のことだろうと思う。
一度真実を追うのをやめ、記者阿久津英士の来訪を恐れた曽根俊也が、再び阿久津と共に真実を追うことにするのが心動かされるところ。
生島望と聡一朗の運命があまりに気の毒で、読んでいるだけで忍びなかった。
別れて半年で彼女が身ごもっていたらそれはショックだろうし、保険証もなく病院にも行けない。
放火を黙認したとは言え本人が犯したわけでもない罪で、ここまで苦しめられることが哀れでならず、
自分だってこうなっていても可笑しくなかったと思えば
俊也が聡一朗に複雑な気持ちになることも理解できる。

こうした不条理に遭った時、不幸を軽減するには
一人ひとりが考えるしかない。
そのためには総括するための言葉が必要だという
阿久津の言葉は、今まで言葉を文字にすることで生きてきた人ならではだと思った。
元記者である筆者本人の思いも混じっているのではなかろうか。

好きになれないキャラではあったが、鳥居の
俺らの仕事は因数分解みたいなもん。
素数になるまで割り続けるのは並大抵のことやないけど諦めたらいかん
という台詞も良かった。

自分も当時の事件を知らない世代なので、
筆者と同世代以降の知らない世代が絶賛しているだけ
という意見についてはなんとも言えないところ。
当時テレビ局で働いておられ、実際に取材を行っていた方の
犯人はグリコに恨みがあり金には執着していなかったと思うという肌感覚から来るレビューは非常に興味深かった。

飽く迄もフィクションとして楽しむべきではあるが
主体となるグリコ森永だけでなく全て名前を変えて
はっきりとグリ森がモチーフのサスペンスと謳わない方が
あるいは良かったのかもしれない。

まったくメインの物語とは関係のない、重箱の隅をつつくようなことだが
いきなりおにぎりを3つも一遍に取り、
更には卵焼きを手掴みで取ろうとする娘に対し
「ひとつずつ食べて」「フォーク使って」
と母が言うのは小言ではなく、至極当たり前のことを教えてあげているだけだ。
それを小言だと思うよりも、父親も止めてあげて欲しい。
そんなやんちゃな娘と一緒に食事していると
食べ物に集中できないが退屈しないって言えるのは
俊也と義母だけで母親は大変だと思う。

亜美が俊也の告白を聞いて、「わかりました」としか言わないところが恰好良かった。
できた奥さんだと思う。

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