サブマリン (日本語) 単行本 – 2016/3/30
伊坂 幸太郎 (著)

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「武藤、別におまえが頑張ったところで、事件が起きる時は起きるし、起きないなら起きない。そうだろ? いつもの仕事と一緒だ。俺たちの頑張りとは無関係に、少年は更生するし、駄目な時は駄目だ」/「でも」/うるせえなあ、と言いたげに陣内さんが顔をしかめた。/「だいたい陣内さん、頑張ってる時ってあるんですか?」/と僕は言ったが電車の走行音が激しくなったせいか、聞こえていないようだった。(本文より)

陣内さん、出番ですよ。

』から、12年。
家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年」たちの物語。

、書き下ろし長編。

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チルドレンの続編。
陣内さんは実際にいたらやはり迷惑なんだが
どうしても憎めない不思議なキャラクターだ。
武藤らも含めて相変わらず台詞のテンポとセンスが良く
小気味良い。

当初は続編を書くつもりはなかったそうだが、
陣内ならどうするか、と少年が起こした事件を見て思い
このサブマリンが生まれたのだとか。
チルドレンは
調査官が頑張れば必ず非行少年は理解してくれる、
という話にはしたくないと思い執筆されたそうだが
更に本作では揺れ動く人の感情、はっきりしない結末に加え
エンターテインメントを意識して書かれたという。

飽く迄もフィクションであり、やりきれない悲しさの漂う文学的な小説ではなく
エンターテインメントに振り切った面白い小説を目指したというだけあって
正に『やりきれないけどそれだけではない物語』に仕上がってる。

扱っているテーマ自体は思いが、読み進めるのは全く苦ではなく
エンターテインメントが強すぎる訳でもなく
希望も仄見えるストーリーだ。

チルドレンを読んでいなくても問題ないが
読んでいればより楽しめるし、再度読み返したくなる。

主人公である武藤は常識人である。
仕事を真面目にこなし、悩んだり、
駄目なことを駄目だと思いつつはっきり言えなかったりと、
陣内に比して読者の身近な共感しやすいキャラクターになっており
それも読みやすさのポイントだ。

近頃『伏線』の認識ハードルが低くて
何も伏せられていない提起された問題の答えが提示されたのを
伏線がすごいなんていう人が多くなっていて常々疑問なのだが
伊坂先生の話は伏せらせすぎて伏線とも気づかなかった些細なことも
全てが拾い上げられてきっちり収束していくのも相変わらず気持ち良い。

ご都合主義という感想をちらほら見かけるが、
フィクションな上エンターテインメントに振って敢えて書いているものなので
自分はとても読みやすく良い本だったと思う。

以降ネタバレあり。


堂々と正しいとは言えないが、内心では多くの人が
正しい、許される、ありだと思うようなことは
実際にはある。
小山田くんが脅迫した相手が、過去に誰かを脅迫した人ばかりを選んでいたというのもそうだろう。
最初に人を脅迫した、と聞いただけのときから
少なくとも印象は変わってくる。
かと言って正しいこととは言えない。
今の日本は法治国家だからこそ、悪い人だから殺してもいいとはならない。
だが、気持ちとしては復讐なら仕方ないとどこかで思うこともある。

そんな脅迫者を脅迫することについて、面白いと
はっきり言えてしまう陣内さんは強い。
弱いやつじゃなく悪人を狙え
サッカーならミスを挽回することもできるが人の命は失ったら戻らない。取り返しがつかない
というのもそうだ。
人生を麻雀にたとえて、配られた牌が悪くても
その中でできるだけましな手で上がるようにするしかない
というのも頷くところだ。
それが不公平だとかずるいとかそういった感情とは
違うところからある意味で冷静に真実を見ている言葉だ。

そんな陣内さんが、滅茶苦茶をやっていて
普通には慕われていないにしろ、少年たちが覚えている存在であり
また陣内さんも彼らのことをきちんと覚えてくれているのが良い。
関わった案件の少年ではなくて、友達として接してくれているところも
世間一般では大人げないにしろ、心が救われる。

若林くんが起こした事故が見えないときもずっと潜んでいてことあるたびに、急浮上する。
それは今回のように回り回って棚岡少年に影響を与えもするし
若林青年本人にも襲いかかる。

無邪気に加害者ばかりを憎む部外者の自分たち。
事情を知ったら加害者に同情してしまうような
身勝手である意味純粋でもある。
それが世間でもある。
割り切れず、難しい。
陣内さんが言っていたとおり、正義は勝つなら
簡単で受けがいいのだが、人生はそうもいかない。

それでも、頑張っている人は報われて欲しい。
そう思う。

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