そもそもこのシリーズを読み始めたのが、この伊坂先生の短編が読みたかったからなのだけれど
思いの外どの話も面白くて表題通り元気が出るので1から順番に来て、
遂にこの3冊目。
いろんな職種の女性が描かれていて、本当にとても興味深い。
『ヴィーナスの誕生』
美術品展示と一口に言っても、華やかな表舞台だけでなく
作業着に身を包んでトラックで運んでくれる人もいてこそ。
両極端の場所にいるように見えるふたりの学生時代からの共通の夢が
叶うというのがとても良かった。
『心晴日和』
考えてみれば当たり前なのに、消防というと消防車に乗って現場へ駆けつける
というイメージが強く、電話を受けてくれる人にまで目が向いていなかった。
確かにここを襲われればパニックになる訳で、
そうされない為に通常のコールセンターよりも様々な工夫がされている。
一点、「みっともよくない」という言葉遣いが気になった。
正しくはみっともないで、みっとものう、見たくもないから派生しているはず。
しかし近年はこれを見た目が無い、悪いと捉え、みっともいい、みっともよくない
という使い方をする人が出てきて、国語辞典でも数社で掲載しているところもあるらしい。
ただ自分としてはこれは間違った言葉遣いだと思うし違和感が拭えなかった。
『彗星さんたち』
は本当に流石伊坂先生で、非常に素晴らしい。
短い中にドラマとちょっとファンタジックで、でも思わず信じてしまうような
エピソードを混ぜ込み、ぐいぐい読者を引き込む筆致が相変わらずで、
近年話題になる新幹線の清掃員を取り上げたところも面白い。
確かに交通手段である以上、テーマパークや百貨店などと違って
色んな事情で利用する人がいて、楽しい気分の人ばかりではない。
その中にあって、兎にも角にも「ちゃんと」するしかない。
『ラブ・ミー・テンダー』の1曲1分、『ヴィーナスの誕生』の美術館展、
とさり気なく入れ込んであるし、参考文献と礼文が文末にきっちり入れてあるところも
伊坂先生ならではだなと感じた。
常にベストをつくす。見る人は見ている。
どんな仕事においても言えることであり、シリーズの最後を締めくくるのに
ふさわしい短編であったと思う。
2014.7.18